【山下つぼみ監督】パリ・レジデンス/ワークショップ滞在レポート

パリ・レジデンス滞在レポート参加監督:山下つぼみ滞在期間:2025年7月18日~8月7日滞在地:フランス・パリ

滞在型企画開発 レポート
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パリ・レジデンス滞在レポート
参加監督:山下つぼみ
滞在期間:2025年7月18日~8月7日
滞在地:フランス・パリ


2025年7月中旬から8月上旬にかけて、パリを拠点としたレジデンスプログラムを実施した。本レ ジデンスでは、企画中の長編作品の脚本開発を主軸に、スクリプトコンサルタントや映画関係者、詩・俳句に関わる研究者・実践者との対話を通じて、作品のテーマおよび物語構造を国際的な視点から再検討することを目的とした。

脚本開発を通じた物語構造の再検討

滞在期間中は、企画中の長編作品をもとに、複数回のスクリプトコンサルテーションを実施した。 とりわけ、物語の核となる「盗む」という行為について、その動機や意味づけが十分に掘り下げられているか、主人公が内面的に何を求めているのかという点が重点的に検討された。 名誉や成功といった外的目標ではなく、主人公の内面的な欠落や欲求を物語の推進力としてどのように描くかについて、プロットおよび構成レベルから見直す必要性が明確となった。また、物語上の重要な出来事をどの段階で配置するかによって、観客の受け取り方が大きく変化することを意識し、脚本全体の構造を再整理する作業を行った。


登場人物の関係性とテーマの明確化

登場人物同士の関係性については、年齢や立場といった表層的な違いではなく、価値観や生き方の根本的な差異として描くことの重要性が指摘された。人物間の対立や共鳴を通じて、作品のテーマがより明確に立ち上がるよう、キャラクター設定および関係性の再構築を検討した。

俳句・詩をめぐる国際的リサーチ

脚本開発と並行して、作品内で重要なモチーフとなる俳句や詩についてのリサーチを実施した。 国際俳句協会を通じて翻訳者や俳人と交流し、西洋圏では俳句が「禅」や「マインドフルネス」と結 びついた詩形として受容されている一方、日本の俳句とは異なり、強い主体性や内省を伴う表現 が主流であることを確認した。 また、東南アジア諸国においては、日本の俳句に近い自然観や季節感が共有されていることにも 触れ、俳句という文化が地域ごとに異なる文脈で解釈されている現状を把握した。これらの知見は、作品内で俳句をどのように位置づけ、海外の観客にどのように提示するかを検討する上での 重要な指針となった。


映画関係者との意見交換

滞在中には、脚本家、プロデューサー、批評家など多様な映画関係者と意見交換を行った。女性の自立や不妊といったテーマがフランス社会において高い関心を集めている一方、日本人女性の社会的背景については、丁寧な文脈説明がなければ十分に伝わりにくい可能性があるとの指摘を受けた。 日本的な感覚と欧州的な価値観との間にある差異を意識することで、作品をより普遍性のある物語として再構築するための課題が明確となった。

文化体験を通じた表現への示唆

シネマテーク・フランセーズでの映画鑑賞や展覧会の見学、市内の歴史的建造物の訪問を通じ、 フランスにおける芸術文化が日常生活の中に深く根付いていることを実感した。観客が作品を能動的に解釈し、多様な意味を見出す鑑賞態度に触れることで、物語の明確さと同時に、解釈の余地を残す表現の重要性についても理解を深めた。

総括

本レジデンスは、脚本を完成させること自体よりも、企画の根幹にあるテーマと向き合い直すことに重点を置いた滞在となった。異なる文化背景を持つ人々との対話やリサーチを通じて、自身が描こうとする物語の本質が整理され、今後の脚本開発に向けた具体的な指針を得ることができた。 Film Frontierという国際的な枠組みの中で作品を客観的に捉え直す機会を得られたことは大きな成果であり、本レジデンスは企画を次の段階へ進めるための重要なステップとなった。


《関谷奈美》